夜更かしにコーヒーを一杯

寝れない夜のお供にinオーストラリア

ジューシー【創作】

僕の名前は中野。

10月4日生まれの天秤座。覚え方はジューシー。趣味無し、帰宅部、彼女無しの3拍子が揃ったその辺にいる高校2年生だ。

「中野ー」

「声でけぇよ。」

「そんなこというなよ。一緒に楽しもうぜ」

こいつは吉田。

高1の時からクラスが一緒で、吉田も部活に入っていない為、放課後クラスで残ることが多く仲良くなった。

特技は超直感。意識を女性の胸元一点に集中させることによって下着の色がわかる。しかし色だけで、時間が3分かかるそうだ。もちろん疑っているのだが、吉田が予想した色を女子に尋ねる勇気もあるはずないので、現状は信じていることにしている。

「どうだ?東さんもう来たか?」

「まだだよ。てかあんまり近づくなよ。汗まみれじゃねえか」

「しょうがねえじゃん夏なんだから。」

「もう10月じゃねえか。だいぶ落ち着いて来てるだろ」

残暑が残る10月。今僕は高鳴る胸を抑えられずにいる。誕生日まであと3日。僕は自分の誕生日をもうひとつの素敵な記念日にしようという計画を吉田と立てている。

「中野ジューシー大作戦」と僕らは呼んでいる。

 

僕には好きな人がいる。東さん。女子ソフトボール部の主将で才色兼備、完璧なうちの学校のマドンナだ。

9月に行われた体育祭で、僕は東さんと二人三脚のペアになった。  ようやく神様は僕に運を与えてくれたと喜び涙を流したが、それもつかの間。体育祭当日、僕は運動神経が皆無な帰宅部。滅多にしない運動のせいで見事に競技中、左足をひねった。当然順位は最下位。惨めさと申し訳なさで東さんと顔が合わせられない、と落ち込んでいると、

「大丈夫だった?こっちきて」

「えっ」

近くの水道に連れてこられ、されるがままにしていると、

「じっとしててね」

どうやらひねった拍子に足を擦りむいていたようだ。アドレナリンで全く気付かなかった。

「痛っつーーー。」

「これくらいで言わないの。こうして、っと。はい、もう大丈夫だよ」

ハンカチを結んで止血してくれた。

「またいつか返してね。じゃ、私次の競技あるから。保健室ちゃんといってね」

 

それ以来、僕は東さんの虜になってしまった。

あんなに優しい女性に出会ったのは初めてだ。もっと彼女を知りたい。付き合いたい。

すぐに吉田に相談した。

「告白するしかないな。」

「早くないか?一回足を結び合っただけで、まずはお友達からとかさ」

「鉄は熱いうちに打てっていうだろ。」

「俺は人間だ」

「そうだ、中野もうすぐ誕生日だよな?その日に付き合えたらお前にとって最高のプレゼントじゃないか!」

「何言ってるかわかんねえよ。」

 

ということで、中野ジューシー大作戦が立てられた。

プランはこうだ。

部活帰りの彼女を待ち伏せし、ばったり遭遇したかのように話しかける。次に、止血の時に貸してくれたハンカチを返す。そこからいい感じに話を進めて行き、別れ際に愛の告白。

 

「「完璧だーーー!!!」」

 

きっと世界の高校生男子はいつだって単純なのだろう。だって僕達がそうだから。

 

「それにしても東さん遅くないか。」

「おかしいな。昨日ちゃんとハルカに確認したのに」

ハルカというのは、吉田の妹。吉田晴香のこと。吉田の一個下で、彼女もソフト部に入っている。東さんととても仲がいいそうだ。

「でもまあもう少し待ってみようぜ。日が落ちるのも遅いしギリギリまで練習してんだろ」

「こんなとこ誰かに見られたらやばいって。」

「中野はビビリだな。大丈夫だ。俺が2年かけて見つけたここなら部室を覗いていても絶対バレない。」

 

言い遅れたが、今僕と吉田は部室を覗いている。

覗いている、というよりは遠くから眺めている。プール裏の男子トイレの大便所の高窓から、ちょうど女子の部室棟が見えるのだ。普段は部室は窓が閉まっているのだが、夏だと暑くて仕方がない為、部室の窓が開く。あくまで僕は、東さんとばったり会うために眺めているわけであって、決してやましい気持ちなどは無い。健全な読者諸君ならきっとわかってくれるだろう。

 

「お!ハルカと東さんだ!」

窓の外を見ると二人が部室に入っていくのが見えた。

「やばい、緊張してきた。お腹痛い。」

「ここでするか?」

呑気なやつだ。

「え、待って、やばい、中野ちょっと」

「なんだよ。今お腹痛い。」

「ハルカと東さんがチューしてる」

「は?」

お腹の痛さとチューというワードの古さは一度置いておいて、吉田は今なんと言った?

窓の外を見ると、それはそれは熱いキスシーンが繰り広げられていた。僕の隣では吉田が固まっていた。学校のマドンナと自分の妹が抱き合って舌と舌を絡めあっているのだ。

僕も僕で頭が追いついていなかった。どういう状況だ。ドッキリ?僕らが覗いているのを見つけたからそれに対する罰?

「いくぞ中野」

「どこに?」

「部室に決まってんだろ。確かめにいくぞ」

「待てって、」

口では止めても足は自然と、飛び出して行った吉田を追いかけた。

 

階段を駆け上がり、勢いよく扉を開けると、そこにはハリウッド映画さながらに熱いキスシーンがあった。

東さんもハルカちゃんも固まっていた。

「どういうことだ」

「なんでお兄ちゃんここにいるの?」

「そんなころはいい!お前、女の人が好きだったのか。」

「違うのお兄ちゃん!

「違わないだろ!」

これが世に言う修羅場、というものか。吉田の後ろに立っていた僕は、どうしたらいいのかわからず、

「あの、ハンカチありがとうございました」

最悪のタイミングでハンカチを返した。

「ううっ」

東さんはパニックになり泣いてしまった。僕の返したハンカチで涙を拭いている。傷を拭いまくりなハンカチ。

「絶対誰にも言わないで!お願い!」

「私からもよろしくお願いします。」

「言う言わないというより、一体どういう状況なのかが」

「なんで男子がここにいるのよ!」

後ろから声が聞こえてきた。他のソフト部員たちが帰ってきたのだった。

「あ、いや、それはですね」

「東泣いてんじゃん!何されたの?大丈夫?あんた達説明しなさいよ!」

「違うんです違うんです、えーっと、感動なんです!」

感動?一体吉田は何を

「たった今、僕の大親友の中野くんが東さんに告白し、嬉しさのあまり泣いてしまった、という状況なんです!」

「そ、そうなんです!ありがとうね中野くん」

 

 

その後、三拍子揃った僕がマドンナを手にしたという一大ニュースは学校中に広まった。しかし、僕らは1日で別れた。東さんが中野と付き合うはずがないと思った、と校内は安堵に包まれていた。僕と吉田だけは、学校の男子がそもそも相手にされていない現実を知っていたので鼻で笑ってしまった。

 

「最近ハルカちゃんどう?」

「しょちゅう東さんと出かけているよ。プリクラだのパンケーキだの写真を山ほど見せられて困ってる」

「仲がいいこった」

「中野ジューシー大作戦失敗しちゃったな。」

「ある意味当初の計画より熱いよ。ジューシー越えて焦げてるよ。」

結果的に、彼女達は付き合い始めたそうで、それを知っているのは僕達だけ。

「結局俺の恋は淡く散っちゃったな」

「中野、俺いいこと思いついた」

「なに?」

「俺らも付き合うか!」

「お前の頭が一番ジューシーだよ。」

 

夏の終わりの、熱い愛の話だった。