イヤフォン越しの私の世界
SNSを消してみた。
細かくいうとTwitterとInstagramを消してみた。
自他共に認めるSNS中毒者だった僕。
Twitterでは異常なほどツイートをRT。
「お前RTの数多いんだよ!」と何度言われようと親の仇と言わんばかりにTLに張り付いてRTを続けた。
僕を知る人なら分かると思うのだが、本当に笑いのツボが浅い。
そしてRTっていうのは「これ面白い!みんなも見て!」という機能だと認識している。
人よりも見てこれ神経が発達しているのでこのような結果に。
一方Instagram。
大学1年の頃にモテたいイケてる系になりたいという至極健全な理由で一眼レフカメラを始めた僕。
三流といえど写真が趣味だ。
一時は本気で写真でバズるタイプのインスタグラマーを目指そうと精を出したが今ではその活力はない。
おじさんには「ハッシュタグ」が扱いきれない。
ハッシュタグをかければ投稿への検索が容易になる。
つまり自分の投稿を見てくれる人が増える。
例えば!
#ラテアート
#コーヒー
#ムンクの叫び
みたいな感じで写真に関連あるタグを付ける。
するとそのタグに関心がある人が見てくれやすくなる。
ハッシュタグにも人気がある。
上でいうと #コーヒー の方が #ムンクの叫び より使用率が高い。
有名なハッシュタグがいくつかあって、その中の1つが #ファインダー越しの私の世界 というタグ。
一時はTwitterで「お前の世界なんか知ったことか」と炎上したこともあるこのタグ。
iPhoneで撮った写真の投稿に#ファインダー越しの私の世界 なんて付いてたら「どこにファインダーあるんだ」と思わずRTしたくなってしまう。
近頃のナウなヤング達は自分の世界を発信しようと必死なのだ。
僕が中学生の頃なんて全く逆のようだった。
当時は今に比べれば大人しく暗めの中学生活を送っていた気がする。休みの日には家にこもってゲームで戦場をかける戦士だった。
しかも、今と違ってSNSは発達しておらず、動画視聴は圧倒的ニコニコ動画派だったし、LINEなんかなくて僕はYahooメールに張り付いていた。
そんな僕に当時、初めて出来た彼女がいた。
とても頭のいい大人しい子で、謙遜とかではなく僕とは全く逆な人間だった。
当時僕は塾に通っていた。
彼女はそこからすぐ近くの塾に通っていた。
人生初の「彼女」という存在への対応に日々悶える中、夏を匂わすビッグイベントが。
「塾の帰りに一緒に帰る」
という青春汁ぶしゃああ!と言わんばかりのイベントが。
普段の学校の下校は汗臭い部活帰りの友達グループと帰っていた。そんな僕が女の子を家まで送って行くとなんて。母ちゃん!赤飯の準備!!
Xデー当日。塾の授業はまともに頭に入らず、太っちょ先生に叱られたような気もする。しかしそんなこと屁でもなかった。
(何話そう)(洋服とか変じゃないかな)(汗臭い?)
不安の数々が頭の中をシャトルランする。
僕の方が少し早く授業が終わったようで、待ち合わせ場所には彼女はまだいない。
夏の日だった。夜は半袖でちょうどいいくらいで、暑くはなかったが、どうにも汗が止まらない。
どうにかこの緊張を紛らわせまいか。
ふと思い出した僕はポケットからウォークマンのパチモンを取り出し、イヤフォンで音楽を聴くことにした。
今でも大好きなBUMP OF CHICKENの天体観測。
現実逃避に夢中になっていたタイミングで彼女がきた。
じゃあ帰ろっか、となった。
恥ずかしさと変な格好つけ(決して格好良くはない)のせいなのか、あろうことか僕はイヤフォンをした状態のまま彼女を家まで送った。
いやなんでだよ。
今でもたまに思い出しては土下座したくなる。
きっと向こうは今では覚えてないだろうが、僕の青春の1ページにははっきりとこう書かれている。
「人生最初の彼女をイヤフォン着けて家まで送った」
#イヤフォン越しの私の世界
#ポンコツ彼氏
#コミュ障
その後彼女には振られた。
これまた僕の分厚い青春の1ページに残るもので、なぜか僕の町にある大きな神社の前で振られた。
確かよくある、彼女の友達も来るパターンで。
あのSPみたいなポジションでいるやつ。
あれって告白だけじゃなく振る時もあるんだね。
神様に見守られながら振られた僕。
「優しすぎるから。。。」
優しさというのは飽きをもたらすんだとその時初めて知った。
そっか、わかった!と恥ずかしくて早くその場から去りたくなった僕はすぐに振り返ってその場を去った。
彼女が見えなくなったあたりで音楽を聴き始めた。
イヤフォンからは天体観測。
オウイェーエーンァア!とボーカルが叫ぶ。
見せる世界は、ファインダーか望遠鏡越しがいい。
イヤフォン越しには恥ずかしさしか残らない。
彼女を家まで送って行くときは、イヤフォンをつけては駄目だよ。
その後の人生でたまに思い出して、一人で恥ずかしくてたまらなくなってしまうから。